大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成3年(ワ)2955号 判決

大阪府八尾市山本町南六丁目六番四号

原告

株式会社共栄精工

右代表者代表取締役

高木省三

右訴訟代理人弁護士

谷口達吉

右輔佐人弁理士

藤本昇

千葉県船橋市芝山二丁目一四番一号

被告

株式会社ダイナテック

右代表者代表取締役

宮口建二

右訴訟代理人弁護士

青柳昤子

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  被告は、別紙目録一記載の運搬用回転具を製造し、販売してはならない。

二  被告は、その本店、営業所及び工場に存する前項記載の物件並びにその半製品を廃棄し、同物件の製造に必要な金型を除去せよ。

三  被告は、原告に対し、金二七〇〇万円及びこれに対する平成三年四月二六日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  事実関係(甲六〇ないし七九、検甲四ないし一〇、証人武田、被告代表者本人、弁論の全趣旨)

1  原告は、ボールトランスファー、荷役搬送機器の製造及び販売等を目的として昭和四六年に設立された会社であり、大阪に本店を置き、東京、札幌、仙台、栃木、静岡、名古屋、広島、福岡等全国九か所に営業所を設けている。

原告は、昭和四七年一〇月頃から、半球状に形成された受部に配受された多数の小ボールでメインボールを包み込むように形成した全方向摺動搬送機器を開発し、該機器を「フリーベア」と称して販売していたが、昭和五五年一一月以降は、別紙「原告商品販売実績」記載のとおり、別紙目録二AないしG記載の運搬用回転具(以下、まとめて「原告商品」という。)を製造、販売している。

但し、原告は、品番AFU-500T(B)及びAFU-400T(C2)の商品については昭和六三年度をもって、品番AFU-200T(F2)及びAFU-250T(E)の商品については平成元年度をもって、それぞれ製造、販売を中止している。

2  被告は、プレス周辺機器、運搬用回転具機器等の製造、販売を業とする会社であり、平成元年一〇月頃から、別紙目録一記載の運搬用回転具(「ボールエアリフタMODEL BL36-550」、以下「被告商品」という。)を製造、販売している。

二  請求

原告は、原告商品の形態が、原告の商品であることを示す表示として、日本国内において需要者又は取引者間に広く認識され、商品表示性を具備し、周知性を獲得しているところ、被告商品の形態が原告商品の形態と類似し、その使用は原告商品との混同を生じさせ、不正競争行為を構成すると主張して、不正競争防止法(平成五年法律第四七号、以下同じ)二条一項一号、三条に基づき、被告商品の製造販売の停止並びに被告商品、その半製品及び被告商品の製造に必要な金型の廃棄を求めるとともに、同法四条に基づき、被告の行為により原告に生じた営業上の損害金二七〇〇万円及びこれに対する平成三年四月二六日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

三  争点

1  原告商品の形態は、商品表示性を具備しているか。周知性を獲得しているか。

2  被告商品の形態と原告商品の形態は類似するか。被告商品と原告商品との間に混同を生じるか。

3  原告の営業上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがあるか。

4  被告の行為が不正競争行為に該当する場合、被告に過失があったか。それが肯定された場合、被告が賠償すべき原告に生じた損害金額。

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1(原告商品の形態は商品表示性を具備しているか。周知性を獲得しているか。)

【原告の主張】

1 原告商品は、各部の寸法やボールの数等の細部の形態には若干の微差があるが、各商品の基本的外観形態は次の点で共通している。

(一) 非使用時(静止状態)における外観上の特徴

(1) 幅の広い長尺の基台の上に、同基台より幅の狭い長尺状の受台を設けている点

(2) 右受台には、横一列にほぼ定間隔でもって半球状の多数の受部を設け、各受部に各々銀色のメインボールを配設している点

(3) 右各メインボールが右受台の上面より、ほぼ全体直径の三分の一程度突出して設けられている点

(4) 本体の側面形状がほぼ逆T字状である点

(二) 使用時(動的状態)における外観上の特徴

以上の非使用時(静止状態)における外観上の特徴に加え、使用時においては、前記メインボールの位置が上昇ないし浮上する点が外観上の特徴として加わる。

2 右基本的外観形態は、既存の形態を選択したものではなく、原告独自の創作に係るものであり、運搬用回転具にあっても、またそれ以外の商品にあっても、原告商品と同一又は類似の形態上の特徴を備える商品は皆無である。

被告が原告商品と形態が同一であると主張する、訴外相生精機株式会社(以下「相生精機」という。)、有限会社コスモテック(以下「コスモテック」という。)、エスアールエンジニアリング株式会社(以下「エスアールエンジニアリング」という。)、株式会社コスメック(以下「コスメック」という。)、株式会社小林搬送機器(以下「小林搬送機器」という。)等が製造、販売する乙第九ないし第一三号証のダイリフタ製品は、原告商品のような受台にボールを配したボール型ではなく受台にローラーを配したローラー型である。そして、この形態の差異こそが、被搬送物を自由自在に動かし、位置決めが出来るか否かという原告商品の機能にも関連する最重要部の一つであり、形態的に見ても、原告商品と他社商品を最も明確に識別できる特徴の一つである。そして、これまで原告商品以外に受台にボールを配したダイリフタは全く存在しなかった。また、乙第九ないし第一三号証(前同)のダイリフタについて、T溝に挿入するタイプであっても側面は逆T字状ではない。結局、被告指摘のダイリフタ製品の存在をもって原告商品の外観上の特徴が商品表示性を具備し、周知性を獲得していることを否定することはできない。

また、被告は、原告自身原告商品以外にもダイリフタの基本形状を備えた製品として、角溝挿入タイプのボール・エアタイプの製品(AFU-5N、AFU-5050-5、AFU-5050-12、AFU-5050W-5、AFU5050W-12、AFU-5050W-18、AFU-5036M)と、T溝挿入タイプのローラー・エアタイプの製品(ARU-200T、ARU-400T、ARU-250T、ARU-500T)を製造、販売しており、この点からしても、原告主張の原告商品の外観上の特徴が商品表示性を取得することはないと主張する。しかし、これらの製品は、いずれも原告商品の外観上の特徴の重要な部分を欠いている(前者は側面視した場合総二階型であるのに対し、後者はローラー型である。)から、被告の主張は当たらない。

さらに、被告は、乙第六号証及び第六九号証の各公開実用新案公報並びに乙第七号証の公開特許公報に、原告主張の原告商品の外観上の特徴を具備した製品が掲載されているとし、これを根拠に、原告主張の原告商品の外観上の特徴が商品表示性を取得することはないと主張する。しかし、乙第六号証及び第六九号証の公開実用新案公報に掲載された形態を有する製品が実際に製造、販売された形跡は全くない。また、そもそも、特許権や実用新案権の場合のように、先行技術が公報に掲載された事実によってその新規性が否定される場合とは異なり、不正競争防止法で問題となる商品表示性は一枚の公報の存在によって否定されるものではない。乙第七号証の公開特許公報に掲載の発明の特許出願人は原告自身であるが、そのことは原告商品の商品表示性の獲得にマイナスとなるものではない。また、乙第六八号証の公開実用新案公報については、ローラー型であり原告商品のようなボール型ではないから、原告商品の形態の商品表示性を否定する資料とはならない。

3 原告商品の形態は、原告商品の技術的機能から必然的に由来する唯一不可避のものではなく、原告が独自に選択したものである。すなわち、例えば、ダイリフタのメインボールを横一列に配する形態と異なる形状にすることは十分可能なはずであるし、基台や受台を原告商品のような形状にしなければならない必然性は全く存しない。更には、必ずしもメインボールを横一列にほぼ全体直径の三分の一程度突出して設ける必要もないし、メインボールの位置が上昇ないし浮上する必要もない。

被告は、原告商品の本体の側面形状が逆T字状になっている点について、駆動機構にエアを使用する場合には、油圧に比して駆動力が弱いため、T溝の広い下幅一杯に駆動部を設けることが設計上最も望ましく、T溝挿入タイプのダイリフタについてエアを使用する場合に側面を逆T字状とするのは当然であると主張するが、被告商品のカタログ(甲第九〇号証)においても、T溝挿入タイプのダイリフタでエアを使用するものについて、側面形状が逆T字状となっていないものも多く見られる。また、甲第八五、第八六号証のように、T溝挿入タイプのダイリフタでエアを使用する場合でも、側面形状が逆T字状でないものを作るのは技術的には十分可能である。被告は、甲第八五、第八六号証のような製品は経済性を無視した製品であり、T溝挿入タイプのダイリフタについて駆動にエアを使用する場合に側面を逆T字状とすることは、ダイリフタの目的と作用からして当然に導かれると主張するが、甲第八五、第八六号証のような製品の方が製造が簡単であるし、単体のフリーベアを設置するのみであるから、製造方法によっては、かえって安価に生産することができる。

また、ダイリフタには、U溝挿入タイプとT溝挿入タイプの二種類があり、それぞれについて駆動機構に油圧、水圧、その他の液体圧、エア圧を用いる四種類の手段の選択の余地があり、また、それぞれについてローラー型とボール型が選択可能である(都合二×四×二の一六種類の組み合わせが考えられる。)。そして、T溝挿入タイプのダイリフタについて駆動機構にエアを使用する場合、側面を逆T字状とするのが当然であるとの被告の主張を前提としても、駆動機構にエアを使用するのでなければ、側面を逆T字状ではなくて箱型となし得る。このようにダイリフタの形態としてこれだけ多様な選択枝があり、原告商品の外観上の特徴は、ダイリフタの技術的機能から必然的に由来する唯一不可避のものではなく、原告が独自に選択したものであるから、T溝挿入タイプのダイリフタについてエアを使用する場合に側面を逆T字状とするのが当然であるという被告主張が仮に正しいものとしても、それをもって原告商品の形態の商品表示性が否定されることはあり得ない。

4 原告は、原告商品について、〈1〉昭和五六年一月から今日まで、工業製品の宣伝媒体としては最も著名な新聞である「日刊工業新聞」(発行部数毎日約五五万部、甲第三号証ないし第一四号証〔枝番を含む。〕)に宣伝広告を掲載し、〈2〉昭和五五年一二月から今日まで、業界雑誌である「プレス技術」(月間発行約三万部、甲第二六号証ないし三七号証〔枝番を含む。〕)に、昭和五六年八月から今日まで、機械製品の宣伝・広告誌として著名な雑誌である「機械設計」(月間発行部数約三万六五〇〇部、甲第三八号証ないし第四九号証〔枝番を含む。〕)に宣伝広告を掲載し、〈3〉各種機械製品等を扱う有力販売会社の毎年のカタログ等(甲第五〇号証ないし第五九号証)に原告商品の宣伝広告を継続的に掲載してきた。

なお、被告は、これらの宣伝広告においては、広告の文面はダイリフタの機能、作用等の説明に尽き、また、そこに掲載された写真はAFU-500T商品の全体形状すら把握できない不明瞭な写真であるから、これらの宣伝広告によっては原告主張の原告商品の形態が商品表示性を取得することはあり得ないと主張するが、これらの写真によって原告商品の外観上の特徴を把握することは十分に可能である。また、商品の形態や意匠をセールスポイントにするのであれば、その部分を克明に宣伝広告したり、写真でも大写ししたりするであろうが、使用目的や性能をセールスポイントにする商品であれば、その宣伝広告は使用目的や性能に関する説明文を記載し、商品の写真や図面を掲示するに当たっても、その説明文のイメージを視覚に訴えるための写真や図面を掲示するだけであるのが通常である。本件においても、甲第三号証の新聞広告からも、基台上の細幅の受台上にボールが多数配されていることが十分に分かり、説明文中の「…重量物も自由自在、…エアー浮上式…エアー浮上式フリーベアユニットAFU-500TN一本で五〇〇kgの金型を支え重いプレス金型も前後左右三六〇度方向にスムーズに移動調節できます。AFU-500TNはプレス機械等のボルスターのT溝に挿入するだけです。AFU-500TNの始動抵抗は実測値で2/100、したがって二本使用の場合一トンの金型なら二〇kgの力でスムーズに手早く金型のセッティングができます」との記載と併せて読めば、それ自体で原告製品の外観上の特徴をユーザー等に十分視覚的に訴えている。

また、被告は、これら宣伝広告の主体が株式会社フリーベアコーポレーション(以下「フリーベアコーポレーション」という。)となっているとするが、フリーベアコーポレーションは、原告の完全な子会社で、原告会社の販売会社の役割を果たしているのであるから、被告の主張は失当である。

5 原告商品の外観上の特徴が商品表示性を具備し、周知性を獲得するに至った経緯は以下のとおりである。

原告は、一方では、原告商品の機能や用途、価格等を、従来の他社製品のそれと比較しながら、特定のユーザーや問屋等に口頭で、あるいはパンフレットや商品を示して、詳しく具体的に説明し、他方では、同様の事項についての説明を、潜在的な不特定のユーザーや問屋等にパンフレット等の宣伝広告媒体を通して行う。前者の場合は、ユーザー等の目と耳を通じて、後者の場合は、その目を通じて訴えるものである。そして、後者によって原告商品の存在を知り興味を持った者は、原告商品を取り扱う問屋を訪れたり、原告の社員を呼んだり、電話で説明を聞くことになる。

このようにして原告商品の特色や優秀性を理解したユーザーが原告商品を購入すると、直接的な説明や広告による宣伝効果に加え、口コミによる宣伝効果も期得できる。その際、口コミだけで原告の名を聞き連絡してくる者もあれば、原告商品の設置現場を見て連絡してくる者もあり、既に購入した者を通して連絡してくる者もある。

そのようにして原告商品は消費者やユーザーの間に広く認識されるようになり、これが更に進展すると、現在のユーザーや原告商品を取り扱う問屋筋以外の潜在的なユーザーや、原告商品を取り扱わない問屋筋にも、原告商品の評判や噂は広まっていく。

この過程において、原告商品の外観上の特徴は、徐々に漠然としたイメージから具体的なイメージに、更には具体性をもった認識へと移行していく。すなわち、当初その性能や価格を重視して原告商品の購入を決定していたユーザーや問屋筋、あるいは、潜在的なユーザーや問屋筋の中に、細長い金属製の台が二段重ねとなっており、その上に銀色のボールが横一列に多数設置されており、そのボールが少し顔をのぞかせ、側面が逆T字状形状の商品は、あらゆる方向に搬送物を移動させるためのものであり、特定の会社によって製造、販売されているものであるとの認識へ移行していく。

6 原告商品の外観上の特徴となる右1で述べた形態は、昭和五五年一一月に原告商品の製造販売が開始されて以来一一年にわたり原告により排他的に使用され、発売開始から平成四年九月三〇日までの約一一年間に計五二六六基が販売され、その売上高は七億五四一五万九八〇〇円相当にものぼる。我が国において、搬送物をあらゆる方向へ移動させることができるボール方式の運搬用回転具としては原告商品があるだけであり、原告商品は右期間中、需要者や需要数の限られた業界の中で一〇〇パーセントのシェアを占めてきた。

被告は、原告商品がダイリフタ市場の六パーセントを占めるに過ぎないと主張するが、仮にそれが正しいとしても、エアー式のダイリフタとしては原告商品以外には存在しないし、ボール式で自由自在に位置決めのできるダイリフタも原告商品以外には存在しないから、その市場占有率は一〇〇パーセントといってよい。

【被告の主張】

1 本件訴訟において原告は、原告商品の形態について、それが出所識別力を有しており、周知性も獲得したとして、不正競争防止法の適用を求めている。しかし、原告が原告商品について特許権や実用新案権等を有していない以上、被告商品にどのような構造や形状を採用しようと本来被告の自由である。このような自由な営業活動を制約し、原告が原告商品の特定の構造や形状を独占しようというのであれば、それは例外的に認められることであり、当該構造や形状が単なるそれを超えてセカンダリーミーニングとして、原告の商品であることを示す自他識別力を極めて明確に有するに至っている場合でなければならない。

2 原告商品及び被告商品は、いずれもダイリフタと呼ばれる製品である。本件では、ダイリフタという製品の目的、機能、通常有する形態についての理解が不可欠である。

(一) ダイリフタの製品分野について

ダイリフタとはプレス機械の金型交換のためのシステム部品(以下「金型交換システム」という。)の一つである。金型交換システムは、昭和五一、二年頃から相生精機が先駆となって製造販売を始めたシステム部品で、相生精機が製品を出してから約半年遅れてエスアールエンジニアリングが同種製品を出し、さらに他社が同種製品を出して追随するといった形で市場が拡大した分野である。

この金型交換システムは、プレス機械のボルスタに取り付けるプレス用金型をボルスタ上で(あるいはボルスタ上に)楽に移動させるための部品類の総称で、プレス機械に標準装備される部品類ではなく、プレス機械のユーザーの希望によってオプションとして取り付けられるシステム部品である。

(二) ダイリフタの目的、構造及び作用

プレス機械を使用してプレス加工を行う場合、プレス加工に必要な金型をプレス機械に取り付ける必要がある。金型を取り付けるには、金型の上型と下型を重ねた状態でプレス機械のボルスタと呼ばれる部分の上を移動させ、ボルスタ上の所定位置に正確に金型が位置決めされたところで、金型の下型はボルスタに、金型の上型はプレス機械のスライドと呼ばれる部分にTボルトで固定する。そしてこの金型の下型と上型の間に材料を挿入し、その上で金型の下型と上型を合わせてプレスすることによって、金型どおりの形の製品のプレス加工が行われる。

ボルスタには金型固定のためのTボルトを挿入できるように、断面形状が逆T字状のT溝が何本かあらかじめ設けられている。

プレス機械一台で色々なプレス加工をするには、数種類の金型(上型及び下型)を交換して使用することになるが、ボルスタ上を移動させる上型と下型とが重ねられた状態の金型は何t、あるいは何百kgと重いものであるため、それを交換するのは大変な作業である。そこで、この作業を補助するための補助部品が工夫されたものであり、ダイリフタはその一つである。

ダイリフタは、このように金型交換時に金型の移動を楽に行うための補助部品であって、ボルスタの細長い溝に挿入して使用するため細長い長尺状の部品であり、最上部には金型を転がして移動させるための転動体が設けられており、また、右転動体は浮上時に溝から突出しうるように一列に配置ざれており、金型がボルスタ上を移動する場合には油圧等の駆動力でダイリフタの最上部に設けられた転動体をボルスタ上に浮上せしめ、これにより金型を摩擦の大きなダイリフタ上ではなくダイリフタに載置されている転動体上で移動させるようにした構造の部品である。そして、金型がボルスタ上の所定位置まで移動され位置決めが終了すると、金型をボルスタに固定するためにダイリフタは浮上位置から下降する構造となっており、そのため、金型をボルスタにTボルトで固定することができるのである。

T溝は、金型を固定するためのTボルトを挿入するためにボルスタにあらかじめ設けられている溝であり、断面が逆T字状の細長い溝である。そしてプレス機械の大小によって、使用できる金型の大きさも異なり、その固定用のTボルトの大きさも異なってくることから、必然的にT溝の寸法もプレス機械ごとにまちまちになっている。最近はJIS規格によってある程度統一されているが、JIS規格自体がすでに多種多様のものであり、また、JIS規格によらない独自のT溝寸法を有する機械も少なくない。

初期の頃のダイリフタは、ボルスタにダイリフタ用のU溝(角溝)を特に加工して、この溝に挿入して使用するタイプのものであったが、遅くとも昭和五三年頃には相生精機が、ダイリフタ用にU溝を特に加工することなく、ボルスタにもともとT溝挿入用に設けられているT溝をそのまま挿入溝として利用するT溝挿入タイプのダイリフタの製造販売を開始し、以後U溝挿入タイプとT溝挿入タイプの二種類のダイリフタが各メーカーによって製造販売されている。

ダイリフタは、以上のとおり、ボルスタの溝に挿入して使用するものであるから、U溝挿入タイプとT溝挿入タイプのいずれにおいても、全てが細長いいわゆる長尺形状になっており、また金型移動が楽に行えるように転動体を配置するものであるから、全てが最上部に転動体を一列に配置する形状となっており、転動体は、等間隔に配置するのが通常であり、さらには金型移動時には転動体を溝から浮上させ、固定時にはこれを下降させる目的を有する部材であるところから、全てが駆動機構を設けて金型移動時には転動体を溝から浮上させ、固定時には下降させるという構造のものである。

2 原告が本件訴訟で原告の商品表示として主張する原告商品の形態は、実に三回も変更され、しかも、当初「AFU-500TN」のみに関する形態であったのが、七種類の原告商品から抽出される抽象的な形態へと変更されている。真に特徴的な形態であるならば、このような変更があるはずがなく、右のような度重なる主張の変更自体、原告の主張が恣意的で根拠のないものであることを示している。

3 原告商品のうち、その形状が現物により証明されているのは、別紙目録二A製品だけであると被告は考えるが、仮に別紙目録二AないしGに示される全ての製品が右各目録記載の形状であるとしても、別表(AないしGの各アルファベットは右目録AないしGに対応する。)に示すとおり、各々が各別の具体的形態を有しているものであり、長尺部分の長さも高さも、取付部分の形状も、ボール数もボールとボルト頭部の配置形状も各々異なっている。あえてそれらに共通する形態的特徴を挙げると、以下のとおりである。

原告商品は、昇降装置としてエアシリンダを採用したため、小さな多数のエアシリンダを組み込む構造を有しており、ボール保持部の上段、下段のいずれにも多数のボルト頭部が列をなして配置されるという特徴がある。これを別紙目録二AないしF製品についてみれば、〈1〉平面図において上段に略円形状の多数のボルトの頭部の形状が現れ、〈2〉中段にボルトの頭部よりも多数の円形のボールの形状が現れ、〈3〉下段には上段と対称の位置に上段と同数の多数の略円形状のボルトの頭部の形状が現れるという特異な三段形状にその特徴があり、原告主張のような抽象的形状をその特徴として把握する余地はない。

また、右G製品は、右AないしF製品に共通するボルト頭部の現れる特異な三段形状よりなる形態を具備しておらず、形態的特徴が顕著に相違しているのであるから、右AないしF製品と同一の形態的特徴を持つものとして把握する余地がない。

4 原告が主張する前記一【原告の主張】1記載の抽象的形態は、同種の形態を有する運搬用回転具が多数存在するため、何ら特異性のないありふれた形態に過ぎず、原告の商品表示として出所識別機能を獲得しうるものではない。

原告商品は、プレス機械の金型を載置するボルスタから転動体を突出させることによって、ボルスタ上の金型を浮上させ重い金型を容易に移動させようとするものであるが、このような用途の製品には既に種々の製品が存している。

すなわち、原告商品の発売開始前である昭和五四年四月一三日公開の公開実用新案公報(乙第六号証)には、側面が逆T字状をしており、転動体としてボールを使用し、最上部にボールを一列に等間隔に配置し、使用時にボールを浮上させる駆動機構を有した「プレス金型移動用具」が図示されており、右形態的特徴そのものが株式会社中村プレス工業所(以下「中村プレス」という。)の実用新案登録出願に係るものとして広く一般に公開されている。また、昭和五三年一〇月七日公開の公開実用新案公報(乙第六九号証)にも、同様の形態的特徴を有する「プレス機用ダイリフタユニット」が図示されており、右形態的特徴そのものが栗田光郎の実用新案登録出願に係るものとして広く一般に公開されている。

また、エスアールエンジニアリングの実用新案登録出願に係る昭和五七年七月三〇日公開の公開実用新案公報(乙第六八号証)には、側面形状が逆T字状で、最上部に転動体としてローラーを一列に等間隔に配置し、使用時にはシリンダーで浮上させる構造のダイリフタが図示されている。ちなみに、ダイリフタの転動体について、ボールを使用するか、ローラーを使用するかは、実施に当たり適宜選択する技術上の問題に過ぎない。

さらに、乙第七号証は、昭和五六年一一月一七日公開の公開特許公報であるが、同公報にも、原告主張の原告商品の形態的特徴を全て備えた「プレス金型の支承装置」が図示されている。原告は乙第七号証の出願人は原告自身であるから、その存在は原告商品の形態の特徴が商品表示性を取得するのに障害にはならないと主張するが、前記乙第六号証から二年以上もたってから公開された乙第七号証には、もとより原告主張の原告商品の形態の特徴が原告商品であることを示す独自のものであることを窺せる記載はなく、むしろ開示された特定の改良発明の範囲外については権利の及ばないことを公示しているのであり、この種製品としては、第三者の出願に係る乙第六号証と共にありふれた形態に一例を加えているのである。

また、遅くとも昭和五四、五年頃までには、ボルスタのT溝やU溝に挿入され、ボルスタから転動体を突出させることにより金型等を浮上させる用途に用いられるダイリフタにおいて、ローラーを一列に等間隔に並べた長尺物を駆動部材によって浮上させるという構造はごくありふれた構造となっており、このような構造のダイリフタを製造販売している会社としては、相生精機、エスアールエンジニアリング、小林搬送機器、コスモテック、コスメック等の大手メーカーがあり、その製品が乙第九号証ないし第一三号証に掲載されている。原告が本訴において主張している原告商品の中で、原告が最初に製造販売したとする「フリーベアユニットAFU-500T」製品についてみても、右の各社のローラー式のダイリフタに比べると、一列に等間隔に並べられたローラーをボールに置き換えただけの製品に過ぎず、しかも、同製品の製造開始以前から、ボールを使用し側面が逆T字状形状のダイリフタが公知となっていたものであって(前掲乙第六号証、第六八号証)、同製品がダイリフタとして有している構造は何ら特異なものではない。なお、原告は、乙第九号証ないし第一三号証のダイリフタについて、T溝型であっても側面は逆T字状をなしていないから、これらのダイリフタの存在をもって、前記一【原告の主張】1記載の抽象的形態の商品表示性及び周知性を否定することができないと主張するが、これらのダイリフタの側面が箱型となっているのは、油圧を駆動機構に用いているために、駆動機構を収めている下部を上部に比して大きく設計しなくても十分な駆動力を出せるために、偶々上部と下部が同じ細幅の箱型となっているだけである。駆動機構にエアを使用する場合は、油圧に比して駆動力が弱いために、T溝の広い下幅一杯に駆動部を設けることが設計上最も望ましく、T溝挿入タイプのダイリフタについて、エアを使用する場合に側面を逆T字状とするのは当然の設計事項である。要するに、乙第九号証ないし第一三号証においてT溝タイプのダイリフタの側面が箱型であるか逆T字型であるかは、駆動力を油圧とするかエアとするかによる単なる設計事項の相違に過ぎない。また、前掲乙第六号証及び第六八号証において、側面を逆T字状としたダイリフタの構造が知られている以上、原告の主張は当たらない。

さらに、原告自身、ダイリフタの基本的形状を備えた製品としては、原告商品のほか、数種類の製品を製造販売しているのであり、この点からしても、原告が前記一【原告の主張】1記載の抽象的形態を原告商品の形態の特徴であると主張することは失当である。すなわち、原告は本訴で主張しているT溝挿入タイプ以外に、角溝挿入ボール・エアタイプの商品(AFU-5N、AFU-5050-5、AFU-5050-12、AFU-5050W-5、AFU5050W-12、AFU-5050W-18、AFU-5036M)、T溝挿入型ローラー・エアタイプの商品(ARU-200T、ARU-400T、ARU-250T、ARU-500T)を製造販売しており、これら商品の基本的形状は原告商品と同じである。これら同種の製品が存在する状況下では、前記一【原告の主張】1の抽象的形態が原告商品の特徴的形態として把握、認識される余地は全くなく、いわんや右形態が商品表示性を取得するものでもない。

5 原告主張の原告商品の形態の特徴は、運搬用回転具の技術的機能から必然的に由来するものに過ぎず、かかる技術機能的形態を独占することは、機能そのものを独占することであって許されない。

ダイリフタ製品は、挿入するT溝及びU溝自体が細長い長尺形状となっているために、全てが細長い長尺状形状をしている。また断面形状が逆T字状をしているT溝挿入タイプのダイリフタであれば、側面が逆T字状となるように下部を広幅に上部を細幅にすることは、単なる設計事項に過ぎない。現に原告商品以外にも、側面が逆T字状のダイリフタ製品は存在する。

特にエアを駆動力として選択した場合、油圧に比して駆動力が弱いために、T溝の広い下幅一杯に駆動部を設けられるようにその部分を逆T字状に設計することが最も望ましく、T溝挿入タイプのダイリフタについて、エアを駆動力として使用する場合に側面を逆T字状にするのは当然の設計事項である。なお、原告は、被告商品のBL45製品が基台と受台の幅が同じ総二階型(箱型)となっているとして、エアを使用したT溝挿入型のダイリフタでも箱型となし得ると主張している。しかしながら、被告のBL45製品はU溝挿入型のものでありT溝挿入型のものではない。BL45製品はU溝挿入型であるために、エアによる駆動部を十分幅広一杯に設計し、この広い幌に合わせてボール保持部の方を広く設計して箱型としてあるものである。このようにU字挿入型の商品であれば下部の幅広の駆動部寸法に合わせて全体を箱型とすることができるが、T溝挿入型商品の場合には、下部の幅広の駆動部上に乗せるボール保持部はT溝形状に合わせて必然的に細幅とせざるを得ないのであり、したがってエアを駆動力として使用するT溝挿入型の場合には、側面形状が逆T字状になるのが当然の設計事項なのである。また、原告は、甲第八五号証、第八六号証のように、T溝挿入タイプのダイリフタでエアを使用する場合でも、側面の形状が逆T字状でないものは技術的に十分製造が可能であると主張するが、甲第八五号証、第八六号証のような製品は、経済性を無視したものであり、参考にならない。

また、ダイリフタにおいて転動体を一列に設けることは、転動体を長尺状の溝に挿入し浮上せしめて使用することから当然の構成であり、転動体を等間隔に設けることも、製造上最もありふれたものであり、しかも転動体を最上部に設けて使用時に浮上させることはダイリフタというものが金型を転動体上で移動させる目的で使用される部材であることからして当然のことである。

また転動体をローラーとするかボールとするかは、各々の特性を比較してする設計事項に過ぎないことはこれまで繰り返し指摘したとおりであり(なお、乙第二七号証の1、2、乙第三〇号証参照)、ダイリフタにおいて無方向性を持たせるにはボールを使用するしか手段がない。また、ボールを選択した場合に半球状に形成された受部にボールを配することも当然の設計事項である。

このように原告主張の原告商品の形態的特徴(一【原告の主張】1の抽象的形態)は、転動体としてボールを使用し、駆動力としてエアを選択した場合のT溝挿入タイプのダイリフタとしては、商品の目的、作動及び機能から導かれる基本的形態そのものであり、原告商品の形態の特徴となるものではなく、商品表示性を取得し得るものでもない。このような基本的形態は、ダイリフタの技術的機能に由来する必然的形態と言うことができ、これについて、特許権や実用新案権が認められた場合以外は、何人もその独占は許されない。

6 原告商品の宣伝広告態様からも、原告主張の原告商品の形態の特徴が商品表示性を取得することはない。

商品の形態がセカンダリーミーニングとして出所識別機能を取得するためには、商品の形態によってその出所を示すような特別かつ強力な宣伝広告がされることが必要であるが、原告商品については何らそのような宣伝広告はされていない。

原告の宣伝広告(「日刊工業新聞」・甲第三号証ないし第一四号証〔枝番を含む。〕、「プレス技術」・甲第二六号証ないし第三七号証〔枝番を含む。〕、「機械設計」・甲第三八号証ないし第四九号証〔枝番を含む。〕)は、原告商品が「エアー浮上式」であること等の機能、能力及び仕様等を強調しているだけであり、形態によって自他を識別させることを目的とした、二次的機能を積極的に持たせるような強力な内容の宣伝広告ではないし、原告自身も右抽象的形態は何ら特徴として認識していなかった。しかも、これらの宣伝広告に掲載された写真も、原告商品の全てではなく、甲第三号証ないし第一四号証、第二六号証ないし第三六号証の8(枝番を含む。)に掲載の写真はAFU-500Tのみ、甲第三六号証の9ないし第三七号証(枝番を含む。)、第四八号証の5ないし第四九号証(枝番を含む。)に掲載の写真はAFU-500TNのみに過ぎない。その上、これらの写真は、全て特定方向のみから撮影した写真であり、原告主張の原告商品の形態的特徴は勿論、AFU-500TあるいはAFU-5〇OTNの全体形状すら把握することはできない。むしろ、これらの写真では、ダイリフタの形態としてはありふれた一列に等間隔に配置されたボール列の前側に、ダイリフタの形態としては珍しい、多数のボルトの頭部が一列に並んでいるという特異な配置形態がはっきりと撮影されており、この点こそ看者の注意を惹く部分である。

原告商品は、その宣伝広告の主体が原告ではなくフリーベアコーポレーションであり、原告名は広告の最下段に小さく表示されているに過ぎない。したがって、原告商品と原告との関連は広告内容からは全く不明である。

なお、甲第五〇号証ないし第五九号証は、原告商品の取扱商社の配布している商品カタログであるが、これらのカタログでは、原告商品のダイリフタとしての機能、性能、作用、仕様等を説明し、「フリーベア」「フリーベアユニット」の商標によって出所を識別せしめているに過ぎず、また、そこに掲載された写真も、到底原告主張の原告商品の形態的特徴を認識させ得るようなものではない。ちなみに、甲第五三号証には成憲機工が商社として取り扱う原告の製品が掲載されているが、原告の製品としては、本件で主張されている原告商品(最下段に小さく掲載されているに過ぎない。)ではなく、「単体フリーベア」というタイプの製品がその主流であって、原告商品の占める位置は、成憲機工においても、原告自身においても、極めて小さいことを示している。

7 原告商品の販売状況からも、原告主張の原告商品の形態的特徴が商品表示性を取得することはない。

原告商品の同種製品については、相生精機が市場占有率としては第一位であり、続いてコスモテック、エスアールエンジニアリングが大きなシェアを占めている。

原告の主張によれば、原告商品の売上は一一年間で七億円余であり、一年間に換算すると約六〇〇〇万円になる。ダイリフタの市場は年間約一〇億円規模であり、仮に、原告商品について原告主張のとおりの売上があったとしても、市場の約六パーセントを占めるに過ぎない。また、原告の全製品の年間総売上は約一五億円であると原告は主張しているが、そうすると、原告商品は原告の主力製品ですらない。この程度の販売実績しかない原告商品(それも七種類の個別具体的な形態を有する製品の総称である。)の商品形態について、商品表示性が認められる余地はない。

8 1ないし7、特に6で述べたところから、原告の主張する原告商品の形態の特徴が周知性を取得することもあり得ない。

さらに、〈1〉原告商品については、当業者の被告においても、昭和五七、八年頃までその存在自体知らなかったこと、〈2〉原告自身が、昭和五九年七月二五日、原告が原告商品の形態の特徴であると主張するものの全てを備えた意匠を、公然実施もされず、刊行物公知にもなっていない意匠として意匠登録出願をし、特許庁においても、昭和六二年に至っても右意匠について公然実施の事実がないものとして意匠登録をしていること、〈3〉本件訴訟では、当初は右のとおり登録された意匠権に基づく請求も訴訟物とされていたが、そこでは原告自身が右登録意匠が出願前全く見られない独自新規な形態であると主張していたことからすると、原告の主張する原告商品の形態的特徴が周知性を取得していないことは明らかである。特に、〈2〉及び〈3〉の事実からすると、原告が原告商品について昭和五九年七月二五日以前の宣伝広告及び販売行為を、原告主張の原告商品の形態の特徴の商品表示性具備や周知性獲得の根拠として主張すること自体、禁反言の原則に反して許されない疑いがある。

二  争点2(被告商品の形態が原告耐品の形態と類似するか。被告商品と原告商品との間に混同を生じるか。)

【原告の主張】

1 原告商品の形態と被告商品の形態の類似性

(一) 原告商品と被告商品とは、共に被搬送物を前後、左右、斜め等あらゆる方向に移動できる運搬用回転具である点において物品が同一である。しかも、その用途において、主として金属成型ボルスタ等金属加工機械のベースに形成された逆T字状の横溝に挿入し、迅速に金型交換作業を行なう点でも共通する。

さらに、原告商品と被告商品とは、

(1) 非使用時(静止状態)における外観上の特徴が、

イ 幅の広い長尺の基台の上に、同基台より幅の狭い長尺状の受台を設けている点

ロ 右受台には、横一列にほぼ定間隔で半球状の多数の受部を設け、各受部に各々銀色のメインボールを配設している点

ハ 右各メインボールが右各受台の上面より、ほぼ全体直径の三分の一程度突出して設けられている点

ニ 本体の側面形状がほぼ逆T字状である点

(2) 使用時(動的状態)における外観の特徴が、

ホ 静止状態における外観上の特徴に加え、エアーの力によって、前記メインボールの位置が上昇ないし浮上する点が外観上の特徴として加わる

という基本的形態及び機能的形態において共通する。

加えて、基台、受台及びメインボールの色彩も共通している。

(二) 被告商品と原告商品を仔細に観察すると、〈1〉基台の構成が、原告商品では肉薄板体と肉厚板体を一体成形してなるのに対し、被告商品においては、コ字状の基盤とカバー体を一体成形してなる点、〈2〉原告商品では基台の上面で受台の両側にボルトの頭部が裸出してなるのに対し、被告商品には該ボルトが存在しない点、〈3〉被告商品の基台の両側面にはボルトが裸出しているのに対し、原告商品には該ボルトが存在しない点、〈4〉原告商品では本体の内部にエアシリンダーを組み込んでなるのに対し、被告商品では本体の内部に単一の細長いチューブを内蔵してなる点で相違するが、〈1〉ないし〈3〉の相違点は商品形態の相違点としては極めて微細で看者が両商品を並べて注意深く対比観察しなければ判別できない相違点でしかなく、〈4〉の相違点も外観及び機能に影響を与えない製品の内部構造に関する相違点にすぎない。したがって、以上の相違点は両商品の基本的形態の同一性に何ら影響を与えるものではない。

以上を要するに、被告商品は原告商品の基本的形態の特徴を全て備え、両者は類似する。

2 混同のおそれ

(一) 不正競争防止法二条一項一号にいう「混同」とは、文字どおりの「混同」だけをいうのではなく、「混同のおそれ」があれば足りると解されているが、右混同ないし混同のおそれの認定に際しては、当該商品表示の周知性の程度、表示の類似性の程度、顧客吸引力の程度等の一切の事情を総合的に考慮すべきであるが、一般的には原告の商品表示の周知性が高ければ高いほど、また、被告の商品表示の原告の商品表示に対する類似性が強ければ強いほど、混同は生じやすい。

そして、本件では、

(1) 原告商品の基本的形態が、他社の商品と比べ全く独自な特徴を有し、それが長年原告によって完全に排他的に使用され、さらには、新聞、雑誌等多数の広告媒体を通し、強力に宣伝広告が継続され、加えて多量・多額の商品が製造販売されてきたことにより、原告商品の周知性は極めて高く、原告商品といえば原告の製品、原告の製品といえば原告商品という関係が広く業界において認識されていること、

(2) 原告商品と被告商品がほとんど同一といっていいほど形態が酷似していること、

(3) 原告商品は関東や近畿を中心とした工業地帯の自動車や家電の工場の多い地域において販売されることが多く、原告と被告は完全に競業関係に立ち、商品形態が顧客吸引力に極めて大きな影響を及ぼすこと、

(4) しかも、被告商品に出所が全く表示されていないこと、

(5) 被告がユーザーに対して被告商品のボールの摩擦係数を原告商品のボールの摩擦係数とほぼ同じ一〇〇分の三と説明し、被告商品のカタログ(乙第一四号証)にもそのように記載していること

から、両商品の間に混同を生じるおそれのあることは明らかである。

(二) また、不正競争防止法二条一項一号にいう「混同」には、商品の出所が同一であるとの誤認(狭義の混同)のみならず、周知の商品表示の主体とこれを無断で使用する者との間に人的関係、組織上の関係、契約上の関係等が存するのではないかと取引者又は需要者が誤認するという意味での広義の混同をも包含するが、本件においては、被告が被告商品に原告の周知の商品表示である原告商品の基本的形態とほぼ同一の形態を採用しているため、少なくとも原告と被告の間に資本上の関係が存するのではないか、原告が被告にこのような形態の使用についてライセンスを与えているのではないかとの誤認を生じさせるおそれがあり、現に原告は取引先からそのような問い合わせを受けたことがある。

(三) 被告は、ダイリフタ製品は、当該メーカーの型式名によって特定購入されるものであり、当該型式を選択するにあたって、需要者の商品選択基準は、当該ダイリフタ製品の性能の優秀性や仕様の適合性等の当該製品固有の技術的要因によるものであり、商品の外観形態による混同は生じる余地がない、また、カタログ等の技術資料から見積の要求、注文、納品に至る一連の過程において、当該メーカーが誰であるかが顧客に認識されることから、出所の混同はあり得ないと主張する。

しかし、ダイリフタ等の取引過程をその実態に即して分析すれば、被告の主張が成り立たないことは明らかである。すなわち、ダイリフタに関心のある者は、工業新聞や機械関係の雑誌等で原告商品の存在を知り、原告商品の機能や使用方法についての大体のイメージをつかみ、そこに掲載されている写真や図面でそのイメージをさらにはっきりさせる。さらに、場合によっては、原告の担当者から説明を受けたり、カタログの送付を受けることもある。そして、この過程で、商品形態についてのイメージも頭に残ることになる。

そして、これらの者は、たとえ直ちに原告商品の購入に至らないとしても、右の工業新聞や機械関係の雑誌、あるいは、原告の担当者から受けた説明によって形成されたイメージが頭に残り、そのような経験が度重なると、そのイメージは完全に定着する。そのような者の前に、原告商品と形態の酷似する被告商品の写真が掲載されたパンフレットが送付されたり、被告商品を持ったセールスマンが訪れたりした場合、被告商品を原告商品と混同するか(原告商品を記憶している者でも、原告の会社名まで記憶している者は少ない。)、原告商品の販売会社、代理店、若しくは関係会社の販売している商品と混同するおそれが十分みる。

また、かつて原告商品を購入したことがある顧客も、必ずしも原告の会社名まで覚えているとは限らず、このような者のもとへ原告商品と形態の酷似する被告商品の写真が掲載されたパンフレットが送付されたり、被告商品を持ったセールスマンが訪れたりした場合、被告商品を原告商品と混同するか、原告商品の販売会社、代理店、若しくは関係会社の販売している商品と混同するおそれが十分ある。

以上のダイリフタ商品の取引過程の実態からすれば、顧客の間に原告商品の出所は原告であるという明確な認識があることを前提とした被告の主張が誤りであることは明らかである。

そもそも、原告は、本件においては、顧客は原告商品の基本的形態で特定の会社の商品であると認識しているものと主張しているのであり、どこの会社の商品か具体的な会社名までは分からないが、二段重ねの長い金属角柱風の部材の上の段に銀色のボールが多数個一列に並んでいて、その上に搬送物を置けば、わずかな力で金型を動かすことが出来る商品を作り、工業新聞や雑誌で頻繁に宣伝広告を繰り返している特定の会社があるという認識が顧客の間に存する状況に至っていると主張しているのである。そのような認識を有する顧客が同じような形態と同じような機能を持つように見える被告商品やそのカタログ及びパンフレットを見たとき、自分が認識している特定の会社の商品であるとの混同を生じるか、少なくともそのおそれのある状況に至ることは不思議ではない。特に本件では、長年にわたり原告主張の基本的形態を有する商品が他に全く存在しなかったし、その商品についての宣伝広告が長年にわたり頻繁に継続されてきたことからすれば、多くのユーザーや潜在的ユーザー等に「あの商品を作っているあの会社」といつた形で原告商品の形態が特定の会社を連想させる状況が生れており、原告商品の商品形態の周知性や著名性が極めて大きいから、原告商品と被告商品の混同あるいは混同のおそれも極めて大きなものがあるといわなければならない。

【被告の主張】

1 被告商品の開発の経緯

(一) 被告における各種製品の開発について

被告代表者は、昭和四一年から油圧機器、空気圧機器、金型交換システムの技術分野で仕事をしてきたため、これら機器の機能についての十分な知識を有しており、種々の製品について自らアイデアを出し、徐々に自社製品の開発を進め、平成元年頃には、油圧クランプ及び油圧クランプユニット(乙第一四号証の一〇~一一頁、第四五号証、エア利用のリフタ〔ボールエアリフタBTC、ローラーエアリフタRTC、昇降機構本体エアリフタTC〕、油圧利用のリフタ〔ローラーハイドロリックリフタ〕、スプリング利用のスプリングリフタ〔スプリングローラー、スプリングボール、レール型スプリングローラー〕)の一連の自社金型交換システムの製造販売を開始した。

さらにボールエアリフタBTC、ローラーエアリフタRTCについては、平成二年に構造変更を行なって、新製品ボールエアリフタBL、ローラーエアリフタRLを開発した。被告商品「BL36-550」は、この新製品ボールエアリフタBLの中の一つの製品である。

(二) ボールエアリフタBTC、ローラーエアリフタRTCの開発の経緯

被告商品がボールエアリフタBTC、ローラーエアリフタRTCを構造変更したものであることは前述のとおりであるので、まずこれらの製品(以下「被告旧製品」という。)の開発の経緯を説明すると以下のとおりである。

ボールエアリフタBTC、ローラーエアリフタRTCの開発の端緒となったのは、被告が新規に昇降機構の開発に成功したことにある。すなわち、被告代表者は、株式会社アサヒエンタープライズ(以下「アサヒ」という。)に勤務していたころから、サニートレーディング社(以下「サニー」という。)の製品である「テープスイッチ」にヒントを得て、細長いチューブに空気を入れて膨らます細長い機能製品を開発するアイデアを有していた。

被告代表者は、このテープスイッチをスイッチとしてではなく何かの部品に利用できないかと考え、細長いチューブにエアを入れると長尺状で大きく膨らむことを思いつき、両端に金属の部品でエアが漏れないようにし、片側からエアを入れる機能部品を考案した。エア供給設備は、生産工場であれば必ず機械装置等の保守等の一般的な目的のために設置してあるために、エアを動力として使えることは有利である。そして、被告代表者は、断面をコの字状に加工した上板と下板の中にこの細長いチューブを挿入してストッパーでコの字状の上板と下板を止め、下板を固定した状態でチューブを膨らませることによって上板を押し上げる昇降機構を完成させた。

この新規な昇降機構は、コの字状の上下の合わせ板にエアチューブ(エアバッグとも呼ぶ。)を入れ、ストッパーで上昇位置を決定するというシンプルな構造で、製造コストも安くしかもパワーの強い昇降機構であり、「テープシリンダー」と命名された(乙第三五号証のエアリフタTC型がこれにあたる。)。

シリンダーとピストンからなる従来の極めて複雑なエアシリンダー部品と比べると、「テープシリンダー」の部品は、エアチューブ、上板、下板、ストッパー、前側エア供給口及び押え、後側押えのみであり、部品点数は極めて少なく、しかもさほどの加工精度を要せず、したがって安価に製造できるため、被告代表者は、このテープシリンダーを昇降機構として用いたダイリフタ製品の開発に着手した。比較的軽い金型であれば、テープシリンダーのように駆動力にエアを用いても金型を浮上させることが実用上十分可能である。当時はダイリフタは油圧によって浮上させる製品が主流であったが、油圧式ダイリフタを使用するためには、ダイリフタ本体のほかに油圧駆動設備を必要とし、コスト面でも高価になり、場所的にも大きな設置面積を必要とする。これに対しエアであれば、前記のとおり生産工場に常備してあるエア供給設備を利用することができ、その点で有利である。

そこで、エアチューブを用いるテープシリンダーを昇降機構とし、これに金型を浮上させる機械部品を組み合わせてダイリフタとする商品の基本構想が昭和六二、三年頃に完成し、商品開発が開始された。

ダイリフタの昇降機構(テープシリンダー)の具体化としては、

(1) エアを挿入すると丸く膨らむ細長いチューブを、

(2) 断面がコの字状の細長い下板の上に載せ、

(3) これにコの字状の上板をかぶせ、

(4) コの字状の上板とコの字状の下板とを離れないように組み合わせる機能及び上昇距離を正確にコントロールするストッパーとしての機能の両方を兼ねるものとして上下板を貫通するねじを設ける、

(5) エア供給口とスチール製のパイプを設けた口金を細長いチューブの片側に設ける、

(6) 口金のスチール製のパイプを片側に挿入した上で、上下の押え板で細長いチューブを密閉してねじ止めし、チューブの反対側は上下の押え板をねじ止めすることにより密閉し、エアを口金のエア供給口から注入すると、パイプを通ってチューブにエアが入るようにする、という構造を採用することによって実現された。

このエアチューブ式の昇降機構は、エアを入れてチューブが膨らむと、コの字状の上板が持ち上がり、ストッパーによって設定されているストローク分だけダイリフタが上昇するというものであり、上板にかかる圧力が浮上力となるため、チューブの面積とエア圧の積が上板全体にかかる浮上力となる。したがって、チューブの面積を大きく取れば取るほど浮上力を層大きくすることができるという構造である。

エアチューブ式の昇降機構は、原告商品に用いられている極めて複雑なエアシリンダー機構とはその昇降原理自体を異にしており、エアシリンダー機構のように多種類の複雑な部品類を必要としないことから、原材料費も工賃も極めて安価に製造でき、原告商品のエアシリンダー機構の半額以下ですむ。現在の被告エアリフタBLシリーズが原告商品の価格と比較すると約半分の価格となっているのは、このエアチューブ機構とエアシリンダー機構の価格差がその主たる要因となっている。

被告は、この新規なエアチューブ式昇降機構に組み合わせる機械部品として、ボールを用いる場合とローラーを用いる場合の二種類の機構を考案し、商品としても二種類のエアリフタを品揃えした。

その理由は、第一に、当時、被告は、スプリングリフタ製品をすでに開発していたところ、これについてはローラー型とボール型の両製品をすでに品揃えしており、これから品揃えするエアリフタ製品についてもローラー型とボール型があるのは当然と考え、ローラー型だけとか、ボール型だけとかいう発想自体がなかったことによる。

また、ボール型採用の理由としては、当時までにダイリフタ製品の市場が成熟し、また、景気も上向いていたことから、顧客の間に、従来重い金型にのみ用いられていたダイリフタだけでなく、軽い金型用のダイリフタもオプション部品として購入しようという気運があったことがある。軽い金型に使うのであれば、転動体の摩擦係数がローラーよりも大きいボールを用いても金型移動には支障がなく、金型の底面に生じる傷もさほどのものではなく、軽い金型であれば、ボルスタ上で前後左右に位置決めもすることができ、ボール型の方に利点があると考えたからである。ちなみに、ダイリフタの転動体として採用可能な部材としてはローラーとボールしかなく、搬送に一定の方向性を持たせるならローラーを使用するしかなく、無方向性の搬送を実現しようとすれば、ボールを使用するしかない。

以上のとおり、昇降機構としてはエアチューブ式の新規な昇降機構(テープシリンダー)を採用し、転動体としてはローラーとボールを使用するという基本的な構想のもとに製品開発が始ったが、これらを組み合わせた場合の製品全体の構造としては、以下のような点が考慮された。

(1) 当初の品揃えとしてはT溝挿入タイプとすること。商品としての付加価値を高めるために、ボルスタに必ず設けられているT溝を利用し、これに挿入して使用するいわゆるT溝挿入タイプとすることにした。このT溝挿入タイプの方が、新たな溝形成に伴う手間もコストも不要であり、U溝挿入タイプよりもユーザーにとっても便利だからである。なお、現在は品揃えを豊富にするために、U溝挿入タイプも品揃えしている。

(2) エアチューブ式の新規な昇降機構については、コの字状の上板にチューブが密着する面積が広ければ広いほど、同じエア力であってもより大きなダイリフタ浮上力を生じさせることができるので、逆T字状で幅広になっているT溝の幅一杯を利用して、できるだけ大きな昇降機構を設計することとした。

右の(1)(2)の要請を満たすため、上部のボール保持部よりも昇降機構たる下部の方が幅広の設計となっているが、ダイリフタは、T溝という逆T字状に下部が幅広になっている溝に挿入して使用する部品であり、このために下部を幅広に設計することができる場合に、できるだけ大きなエア圧を出すために下部構造を幅広に設計するのは当然である。

また、昇降機構の上に組み合わせるボールあるいはローラーを収める機械部品については、浮上時にボールあるいはローラーがT溝に沿って一列に並ぶというダイリフタの本来の目的からして、T溝の幅が狭くなっている上部の溝型どおりの長方形状(長尺状)として、ボールあるいはローラーを一列に等間隔に並べるのが通常の形態であることから(ダイリフタの転動体が一列に並ぶのはボルスタの溝〔T溝・U溝〕自体一列形状をなしているからであり、等間隔に並んでいるのは、機械加工する時にピッチを等間隔にしておくのが加工に便利であり、コストダウンになるためである。)、T溝の幅狭の上部の溝型から長方形状の寸法を決定し、この長方形状の最上部にローラーを一列に等間隔に並べることとした。

転動体の保持部は、一定の長さのものを-ユニットとして構成し、このユニットを所望の長さに合わせて数個組み合わせて使用するというユニット単位に細分した構造にした。

ボールを転動体として使用する製品については、ボール装着構造として小ボールを敷きつめ、その上に大ボールを乗せ、これにボールが飛び出さないようにボール押えをかぶせたが、これはボールを転動体として使用する場合の周知の手段である(乙第二四号証、第四七、第四八号証)。

こうして旧製品の全体構造が決定されたが、さらに製品としては両端にT溝に取り付けるための取付穴を設けた。ちなみに、原告商品は両端に取付用の部品は設けられておらず、T溝に取り付けるための加工は顧客側で工夫しなければならない。

このようにして完成した旧製品は、ボールエアリフタBTC及びローラーエアリフタRTCと命名され、このBTC及びRTCシリーズは遅くとも平成元年には製造販売が開始された。

(三) 被告商品(本件訴訟対象品)の開発経緯

このようにして開発されたボールエアリフタBTC及びローラーエアリフタRTCシリーズについては、開発後さらに改良変更が行なわれ、ボールエアリフタBLシリーズ及びローラーエアリフタRLシリーズと命名された。本件訴訟の対象となっているBL36-550は、ボールエアリフタBLシリーズの一つである。旧製品から新製品すなわちボールエアリフタBLシリーズ及びローラーエアリフタRLシリーズへの改良変更点は以下のとおりである。

(1) 転動体の保持部についてユニット方式を採っていたのを改め、当初から所定の長さをもつ製品としたこと

ユニット方式を変更したのは、ユニットは特注となり、ユニット方式を採用した目的であるコストダウンにあまり効果がなかったこと、実際には、ユニットの長さとして採用した一〇〇ミリ、二〇〇ミリの製品の注文はなく、五〇〇ミリ、六〇〇ミリ以上が平均的に使用される長さとなっており、この種製品は大量に販売できないので、顧客の要求する寸法にあう製品をユニット単位ではなく、当初から所定の長さを持った一本の長方形状の型式として用意することにしたのである。

(2) 表面処理方式としてさび止めのためのクロームメッキ処理(銀色)を施していただけであったのを、焼き入れ処理を施し、表面処理は黒染め処理としたこと

これは、金型が載るとまず大ボールに荷重がかかり、次いで小ボールに荷重がかかるため、これら大小のボールを入れている長方形状の上部部材の半球状の部分は焼き入れして固くなっていることが望ましいため、ボールを入れている長方形状の上部部材はチッカ処理(焼き入れとさび止めを兼ねた処理)を行ない、また、クロームメッキ処理は皮膜に厚さができるため精密部品の精度に影響を及ぼすこと、当時の状況ではかえって割高となっていたことから、「黒染め」という表面処理(金属の表面にアルカリ着色によって黒い皮膜を形成する。皮膜の厚みが極めて薄い。)に変更したものである。

2 原告商品と被告商品の形態の非類似

原告は、被告商品が原告主張の原告商品の形態の特徴を具備し、また、原告商品と被告商品は、基台、受台、ボールの色彩が共通するから、両者は類似すると主張する。しかし、原告主張の原告商品の形態の特徴なるものは、ダイリフタが当然に具備する基本的形態に過ぎないことは争点2に関して詳述したとおりである。また、色彩が類似するとの主張に至っては論外であり、被告商品の基台と受台の色彩はチッカ処理あるいは黒染めという機械部品の表面処理の慣用手段を用いた当然の結果であるし、ボールが銀色をしているのは、市販品を使用している以上これまた当然である。

原告商品は、例えば、平面図において上段に一五個の略円形状のボルトの頭部が、中段に二〇個の円形のボールが、下段に一五個の略円形状のボルトの頭部が現れるという特異な三段形態として看取される形態となっており、この点に原告商品の特徴がある。

原告商品は昇降機構としてエアシリンダーを採用したため、小さな多数のエアシリンダーを組み込む構造となっており、必然的にボール保持部の両側に一五個ずつ合計三〇個ものボルトの頭部が列をなして配列されるという構造とならざるを得ない。しかも、原告商品はボール部分をボルスタの表面上に突出するための構成としてシリンダーとピストンを使用する構造になっており、浮上時には上部部材と下部部材の間にピストンが突出しているのが看取される。これに対し、被告商品は、エアシリンダを用いることなく単一の細長いエアチューブを内蔵し、このエアチューブヘ空気を供給することによって、コの字状の上板全体がそのまま持ち上がり、これに伴って上板に取り付けられたボール保持部の上部部材も同時に一緒に全体として浮上する構造となっていて、機サイドのストッパーネジで上昇距離調整をしているため、原告商品のように上部部材と下部部材の間に空間を生じたり、この空間にピストンが数本突出し露出されて看取されるということはない。さらに、被告商品の昇降機構はエアチューブ方式であるため、エアチューブを収める上板と下板はストッパーを兼ねるネジで横から止められているだけであり、被告商品を上方から見ても、昇降機構部にはボール列をはさんで大きなボルトの頭部が二列をなして見えるという原告商品の形態上の特徴を一切具備しておらず、その点で原告商品とは形態が類似しない。

3 原告商品と被告商品とは、その販売態様からしても、全く混同を生じる余地がない。すなわち原告商品や被告商品の需要者は、プレス機械の製造会社またはそれを用いて金型セッティングを現実に行う会社であるが、商品購入方法としては、ダイリフタメーカーに直接注文して購入するか、または商社を経由して注文し購入する。ダイリフタは店頭に並べて販売される商品ではなく、需要者が見た目の外観で購入する製品ではない。

そして、ダイリフタ製品の注文に際しては、需要者は必ず当該ダイリフタメーカーの型式名を特定して、それによって商品を注文する。これは、ダイリフタの購入にあたっては、〈1〉ダイリフタの昇降時の負荷能力、〈2〉T溝挿入型のダイリフタの場合、需要者のプレス機械に設けられているT溝の寸法に合う仕様設計であるかどうか、ボルスタの長さに適合するかどうか、〈3〉ダイリフタの転動体がローラーかボールか(ローラーの場合は、金型等の被搬送物について一方向の移動しかできない半面、正確な位置決めが可能であり、摩擦係数が小さいため金型移動に要する力は小さくてすみ、金型とダイリフタが線接触であるため金型の底に傷がつきにくい。ボールの場合は、金型等を無方向に移動させることができる半面、正確な位置決めが困難であり、摩擦係数が大きいため金型移動に要する力が大きく、金型とダイリフタが点接触であるため重い金型の場合には金型の底に傷がつきやすい。)、〈4〉ダイリフタの駆動機構用の設備(エア圧を利用すれば、駆動機構用の設備の設置には多額の費用を要しないが、一本当たりのリフトカは弱い。油圧を利用すれば、駆動機構用の設備の設置費用は多額となるが、一本当たりのリフト力は強い。)、〈5〉T溝挿入型のダイリフタとするかU溝挿入型のダイリフタとするか(前者であれば、需要者のプレス機械に既設のT溝を利用できるが、後者であれば、当該ダイリフタの仕様に応じてボルスタヘの新たな溝加工が必要である。)、〈6〉商品の価額、〈7〉需要者のプレス機械への取付方法等多くの検討すべき点があり、注文に際しては、これらの条件に合致する商品を型式名で特定して注文する必要があるからである。また、修理の必要からもダイリフタのメーカーの確認や型式の確認は必要不可欠である。

このように、ダイリフタは、その購入のために、当該ダイリフタ製品の設計仕様、性能、構造、機能等を事前に十分調査し、それらを総合的に評価検討する必要がある商品であるため、ダイリフタメーヵーは、宣伝広告においても、資料請求先を明示し、需要者が資料請求をしてきた時には、メーカー名も商標も明記され、当該メーカーの型式名によって構造や性能が特定されたダイリフタ製品の詳細なカタログを送付し、需要者の検討の便宜を図るのである。

以上から明らかなように、需要者は、ダイリフタの購入に当たって、メーカー名(すなわち商品の出所)が明記された、当該メーカーの作成にかかる、型式ごとの設計値、性能、駆動方式、構造等を記載したカタログ等の技術資料を取り寄せて詳細に検討し、メーカーあるいは販売代理店から右の各事項について十分説明を受けなければ、自社のプレス機械に適合し、自らの使用する金型やその使用方法に適合するダイリフタを発注すること自体ができない。そして、需要者は、右の各事項を確認した上で、購入しようとするダイリフタを各メーカーのカタログに記載された型式名で特定し、当該型式を製造するメーカーに発注することになる。すでに購入したことのある商品を繰り返し注文する場合も、当該メーカーの型式を特定して注文する。また、注文に際しては、見積や納期、支払い方法等についてメーカーと需要者の間に交渉が行なわれ、その過程で見積書や注文書が作成されるが、そこでは、メーカー名が明記され、型式名によって製品が特定される。納品書、請求書、受領証においても同様である。さらに、納入後の検収過程においても、注文型式名と納入製品の照合が行なわれる。

このように、ダイリフタ商品は当該メーカー固有の型式名によって特定され購入されるものであり、その型式を選択するに当たっての需要者の商品選択基準は、当該ダイリフタの性能の優秀性や仕様の適合性等の当該商品に固有の技術的要因によるものであり、製品の外観形態による混同が生じる余地は到底ない。特に、プレス機械の製造会社が顧客の場合には、以上のような取引形態のほか、購入製品の価格がプレス機械の製造原価に直接響くため、当該メーカーがいかなる値引きに応じるかに強い関心が寄せられ、さらには採用するダイリフタの仕様、構造、寸法等を考慮してプレス機械自体の設計を自ら行なうために、どのメーカーのどの型式のダイリフタを何本使用して仕様を決定するかについて重大な関心をもっており、したがって、メーカー及びその型式の特定について十分注意を払うことになる。

右に詳述したところだけからでも、原告商品と被告商品の間に混同の生じる余地がないことは明らかであるが、被告においては、納入に当たって、被告商品そのものに当該製品の型式名、出荷年月及び被告名を明記したラベルを貼付し、さらに被告名を明記した包装箱に収納したうえで、顧客に納入しており、被告を出所とする商品であることは明確にされている。

三  争点4(原告に生じた損害金額)

【原告の主張】

被告は、遅くとも、平成元年一〇月頃から現在に至るまでの間に、少なくとも合計五〇〇本の被告商品を製造し、一本九万円で販売しており、少なくとも右売上額四五〇〇万円(五〇〇本×九万円)の六〇パーセントに相当する二七〇〇万円の利益を得た。右利益額は、商標法三八条一項の規定の類推適用により、原告の被った損害と推定される。

【被告の主張】

原告の主張は全て争う。本件訴訟対象品である被告商品(BL36-550)の製造販売が開始されたのは平成二年九月頃からである。

第四  争点に対する判断

一  争点1(原告商品の形態は商品表示性を具備しているか。周知性を獲得しているか。)

1  商品形態の商品表示性について

先ず、商品形態の商品表示性について一言すると、商品の形態は、その商品が本来具有すべき機能を合理的に実現したり、その美観を高めるために選択されるもので、直接的にその出所を表示することを目的とするものではないが、商品の形態が極めて特殊なものであるとか、その形態が長期間継続的かつ排他的に一定の商品に使用され、あるいは短期間にせよその形態自体が強力に宣伝広告される等の事情により、取引上その形態によってただちに商品の見分けがつき、その出所がわかる程度になり、二次的に出所表示の機能を備える場合がある。そして、商品の形態が出所表示の機能を備えるに至ったかどうかを判断するには、前述した各要素に加え、当該商品の特色と取引の実状を考慮すべきことはいうまでもない。

2  ダイリフタ商品の特色とその取引の実状

(一) ダイリフタ商品の特色

証拠(乙二三の1~9、四三、被告代表者本人)によれば、以下の事実を認めることができる。

ダイリフタは金型交換システムの一つである。金型交換システムとは、プレス機械のベット上に設けられたボルスタ上に載置して取り付けるプレス用金型の交換を安全にしかも短時間に行うための部品類であり、標準仕様のプレス機械、いわゆる標準機に装備されているものではなく、ユーザーの希望によりオプションとして取り付けられる補助部品である。

プレス機械を使用してプレス加工を行なう場合、これにプレス金型を取り付ける必要があるが、その手順は、まず、プレス金型を上型と下型を重ね合せた状態でボルスタ上を移動させ、所定位置に正確に位置決めしたところで、下型はボルスタに、上型はスライドにそれぞれTボルトで固定する。そして下型と上型の間に加工材料を挿入した後、下型と上型を合わせてプレ恐することによって、金型どおりの形状の製品のプレス加工が行なわれる。なお、ボルスタにはもともと金型固定用のTボルトを挿入できるように、断面形状が逆T字状の溝が穿たれている。

プレス機械上で種々の金型を用いてプレス加工をするためには、作業中に数種類の金型を交換しなければならないが、各金型は上型と下型を併せると総重量が何トンあるいは何百キログラムにも及ぶ重いものであるため、その交換をできるだけスムーズに行なうことができるようにするための補助部品がいくつか必要であり、ダイリフタもその一種である。

ダイリフタは、細長い溝に挿入して使用され、最上部には金型を載置しその上を転がして移動させるために転動体が設けられており、これら転動体は、金型がボルスタ上を移動する場合、油圧やエア圧等の駆動力でボルスタ上に浮上し、その結果金型を摩擦係数の大きなボルスタ上ではなく摩擦係数の小さな転動体上で移動させることが可能となる。金型がボルスタ上の所定位置まで移動され位置決めが終了すると、金型をボルスタに固定するために、ダイリフタの転動体は浮上位置から下降し、金型をボルスタにTボルトで固定する。

なお、この種商品が市場に出回りはじめた当初は、特にボルスタにダイリフタ加工用のU溝(角溝)を加工して、この溝に挿入して使用するタイプのダイリフタが主流であったが、昭和五三年頃から、ボルスタにもともと穿たれているTボルト挿入用の溝をそのままダイリフタの挿入溝としても活用する、T溝挿入タイプのダイリフタが製造販売されるようになった。

(二) ダイリフタ商品の取引の実状

証拠(甲二六ないし四九、八一、八二、乙一五ないし二二、四三、五〇ないし六六、七〇〔いずれも枝番を含む。〕、証人武田、被告代表者本人、弁論の全趣旨)によれば以下の事実を認めることができる。

ダイリフタの需要者は、プレス機械を使用するプレス加工業者若しくは右業者からの注文に基づきダイリフタを取り付けたプレス機械を製造する製造業者であり、その取引ルートもダイリフタメーカーから直販される場合もあれば、機械工具販売店を通して販売される場合もある。

需要者は、ダイリフタ商品の購入に当たっては、製品の負荷能力、駆動機構、転動体の形状・寸法、U溝挿入タイプかT溝挿入タイプか、T溝挿入タイプである場合は、自分が使用しているプレス機械に設けられているT溝の形状や寸法に合うか否か等の各部の詳細な仕様やその加工精度等の機能に重大な関心を有し、専らその点を選択基準として商品を購買する。

ダイリフタメーカーは、顧客の商品選択基準が右のような点にあることを踏まえ、メーカー名を明示したカタログに、自社のダイリフタ製品の各部の仕様や寸法、機能等を詳しく記載し、業界で配布している。なお、通常、一つの業者が多種類のダイリフタを製造販売しているから、右記載も商品の型式ごとに区分してするのが普通である。そして、ダイリフタメーカーは、例えば雑誌に広告を出稿する際にも、資料請求先を明示するなどして、顧客がカタログを入手して自社製品の仕様や機能等を検討し易いように便宜を図っている。

顧客は、ダイリフタが単なる消耗品ではなく、価格も通常五万円を超え、一〇万円以上になることも珍しくない商品であることから、カタログを入手してただちに購入を決断するのではなく、各社のカタログを見比べ、各商品の仕様、機能、価格等を逐一比較検討し、慎重に購入商品を決し、最終的に型式により商品を特定し注文する。

3  原告商品の販売実績

証拠(甲六〇ないし七九、八一、八二、証人武田、弁論の全趣旨)によれば、原告商品の販売実績は、昭和五六年一一月から平成四年九月三〇日までの間に合計五二六六基、七億五四一五万九八〇〇円相当であり、一年に約六九〇〇万円の売上であるから、この数字はダイリフタ市場(年間の総売上は約一〇億円である。被告代表者本人)の約六・九パーセントの市場占有率に相当する。なお、原告は、商品表示性の有無を判断するにあたって考慮すべき市場占有率は、駆動力にエアーを使用するダイリフタの市場、転動体にボールを使用するダイリフタの市場を基準に定めるべきであり、これらの市場での原告商品の占有率は一〇〇パーセントであると主張するが、本件で問題となるのが商品の形態であり機能ではない以上そのように細分化して考えるべき根拠はない。

4  原告商品の宣伝態様

原告商品の広告のうち甲第三号証ないし第一四号証(枝番を含む。ただし、甲第六号証の22、24、25、甲第七号証の4、6、9、14、17、甲第八号証の2、4、6、7、16、19、甲第九号証の4、7、10、15、19、甲第一〇号証の4、7、10、19、甲第一一号証の4、7、8、11、13、15、18、21、甲第一二号証の5、9、13、17、20、24、甲第一三号証の3、5、8、14、15、19、甲第一四号証の4、5、8、12、16、19については原告商品そのものに関する広告ではない。)は、いずれも日刊工業新聞に掲載された広告であるが、原告商品のうちAFU-500T(AFU-500TNのキャプションが記載されている写真も、AFU-500Tの写真である。)を正面斜め上方から撮影した写真と、右商品をプレス機械に取り付けた状態を側面斜め上方から撮影した写真を掲載するのみであり、新聞の一面の縦三分の一、横四分の一程度の小さなスペースに掲載されているため、原告主張の形態上の特徴も十分には識別できず、宣伝文言も、右商品がエアーを駆動力としていること、ダイリフタの負荷能力、金型を三六〇度方向に動かせること、プレス機械のT溝に挿入できること等の機能面に主眼をおいている。また甲第二六号証ないし第三七号証(枝番を含む。)は、いずれも雑誌「プレス技術」誌上に掲載された広告であるが、AFU-500T及びAFU-500TNを正面斜め上方から撮影した写真(甲第二六号証ないし第三六号証の8〔枝番を含む。〕がAFU-500T、甲第三六号証の9ないし第三七号証〔枝番を含む。〕がAFU-500TN)と、右商品をプレス機械に取り付けた状態を側面斜め上方から撮影した写真を掲載するのみであり、雑誌の一頁を使っているため日刊工業新聞掲載の広告写真よりはAFU-500T及びAFU-500TNの形態がよく理解できるが、それでも全体形状までは理解できず(特に、甲第三六号証ないし第三七号証〔枝番を含む。〕では、AFU-500T及びAFU-500TNを正面斜め上方から撮影した写真が小さくなり、そのかわり正確とは言えない原告商品〔どの型番に該当するかも不明〕のイラストが掲載されている。)、宣伝文言も、右商品がエアー浮上式であること、一本で五〇〇kgの金型を支える負荷能力を有すること、金型を三六〇度方向にスムーズに移動・調節できること、プレス機械等のボルスター等のT溝に挿入して使用できること等の商品の機能面の宣伝を主眼としたものである。甲第三八号証ないし第四九号証〔枝番を含む。〕は、雑誌「機械設計」誌上に掲載された広告であるが、AFU-500T及びAFU-500TNを正面斜め上方から撮影した写真(甲第三八号証ないし第四八号証の4〔枝番を含む。〕がAFU-500T、甲第四八号証の5ないし第四九号証〔枝番を含む。〕がAFU-500TN)と、右商品をプレス機械に取り付けた状態を側面斜め上方から撮影した写真を掲載するのみであり、雑誌の一頁を使っているため日刊工業新聞に掲載した広告よりはAFU-500T及びAFU-500TNの形態がよく理解できるが、それでも全体形状までは理解できず(特に、甲第四二号証の2ないし第四九号証の2〔枝番を含む。〕では、AFU-500T及びAFU-500TNの正面斜め上からの写真が小さくなり、そのかわり正確とはいえない原告商品〔どの型番に該当するかも不明〕のイラストが掲載されている。)、宣伝文言も、商品の機能面の宣伝を主眼としたものである。

甲第五〇号証ないし第五九号証は、原告商品を取り扱う商社が配布しているカタログであるが、AFU-400TNあるいはAFU-500TNを斜め右上方から撮影した写真を掲載し、商品の概要、仕様、性能、使用方法の説明を行うだけである。中には原告商品の図面を掲載している広告もあるが(甲第五〇号証は側面図〔浮上時と下降時の両方〕及び正面図、甲第五二号証は側面図〔浮上時と下降時の両方〕、正面図及び平面図、甲第五五号証は側面図〔浮上時と下降時の両方〕及び正面図、甲第五六号証は側面図〔浮上時と下降時の両方〕、正面図〔浮上時と下降時の両方〕及び平面図、甲第五七号証は側面図〔浮上時と下降時の両方と、T溝における取り付け状態を示すもの〕、正面図及び平面図)、これらの図面も製品仕様を詳しく説明する補助手段として掲載されているだけである(たとえば、甲第五〇号証の下降時を示す側面図では、その高さをHと表示し、同じ頁のT溝に挿入するタイプのダイリフタの一覧表の「H」の欄で型式ごとに高さを示している。)。

5  まとめ

2(一)で認定したところによれば、原告が原告商品の形態的特徴であると主張するもののうち、全体形状が長尺状であること、上部に横一列に定間隔で転動体を配置していること、使用時に転動体が上昇ないし浮上することは、ダイリフタという製品がその製品の性質上当然に具備する形態であり、現に、証拠(乙九ないし乙一三〔枝番を含む。〕)によれば、相生精機、コスモテック、エスアールエンジニアリング、アサヒ、小林搬送機器の製造販売するダイリフタが右のような形態を具備している。また、幅の広い長尺状の基台の上に、同基台より幅の狭い長尺状の受台を設けている点と本体の側面形状がほぼ逆T字状である点とは、不可分一体の関係にあるものであるが、T溝挿入型のダイリフタにおいて、T溝全体を有効に活用しようとすれば、容易に推考し得る形状である。

次に、転動体としてボールが使用されている点であるが、証拠(証人武田、原告代表者本人)によれば、ダイリフタで転動体にボールを使用した製品として製品化されたものは、原告商品が初めてであると認められる半面、証拠(乙六、六九)によれば、中村プレスの出願にかかる「プレス金型移動用具」の公開実用新案公報(出願公開・昭和五四年四月一三日)及び栗田光郎出願にかかる「プレス機用ダイリフタユニット」の公開実用新案公報(出願公開・昭和五三年一〇月七日)には、転動体にボールを使用したダイリフタが図示されており(特に前者の図面は、原告が原告商品の形態的特徴として主張するところをほとんど具備しているものと認められる。)、転動体にボールを使用することは搬送方向を三六〇度方向にするためには当業者であれば容易に想到することができる技術事項であると認められ、少なくとも転動体としてボールが使用されている点に原告商品の形態上の特徴があるとはいえないし、従来転動体としてボールを使用したダイリフタを販売していたのが原告のみであったとしても、そのことだけをもって、右形態的特徴が商品表示性を具備したものと断ずることはできない。

そして、2(二)及び4で認定したとおり、ダイリフタは、プレス加工業者やプレス機械製造業者等の専門業者が、その仕様や機能に着目して購買する商品であり、注文に際しても、各メーカーが独自に定める型式によって製品を特定して取引されるものであるから、需要者が商品の仕様や機能を離れて、単に商品の形態自体に着目して購買することは殆ど考えられず、原告を含む各メーカーにおいても、商品の形態によって需要者の購買意欲を刺激したり、商品の形態自体をセールスポイントとして商品の宣伝をするのではなく、カタログ等により商品の仕様や機能を詳しく表示して販売しており、3で認定したとおり、原告商品の市場占有率も必ずしも高いものとはいえない。

以上の認定事実を総合すれば、原告主張の原告商品の形態の特徴が商品表示性を具備したと認めることはできない。

なお、原告は、原告商品がその形態や意匠をセールスポイントとするものではないとしても、原告商品の販売が増大するにつれ、当初商品の機能や価格等を重視して購入を決定していた顧客も、細長い金属製台が二段重ねとなっており、その上に銀色のボールが横一列に多数設置されており、そのボールが少し顔をのぞかせ、側面の形状が逆T字状の商品は、あらゆる方向に搬送物を移動させるための商品であり、特定の会社により製造販売されているとの認識を有するに至る旨主張し、また、原告が日刊工業新聞に掲載した広告の写真と宣伝文言を併わせ読めば、原告主張の原告製品の形態的特徴が十分視覚的に訴えると主張するが、前記判示に照らし、右主張は到底採用することができない。

二  結論

よって、原告商品の原告主張の形態の特徴が商品表示性を具備したものと認めることはできないから、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

(裁判官 小澤一郎 裁判官 本吉弘行 裁判長裁判官庵前重和は転補につき署名押印することができない。 裁判官 小澤一郎)

目録一

〈省略〉

〈省略〉

目録二A

〈省略〉

目録二B

〈省略〉

目録二C

〈省略〉

目録二D

〈省略〉

目録二E

〈省略〉

目録二F

〈省略〉

目録二G

〈省略〉

原告商品販売実績(型式名に付せられたアルファベットは別紙目録二のものをいう。)

一 A型式 型式名AFU-500TN 長さ五三七・五ミリメートル

昭和五七年度(昭和五七年一〇月一日から昭和五八年九月三〇日まで。以下同様)四基、昭和五八年度一七基、昭和五九年度六七基、昭和六〇年度六〇基、昭和六一年度二五基、昭和六二年度三五基、昭和六三年度八三基、平成元年度一〇三基、平成二年度九〇基、平成三年度二〇九基、以上合計六九三基

二 B型式 型式名AFU-500T 長さ五八八ミリメートル

昭和五五年度三一基、昭和五六年度一四三基、昭和五七年度一三〇基、昭和五八年度六八基、昭和五九年度七〇基、昭和六〇年度五二基、昭和六一年度二八基、昭和六二年度三九基、昭和六三年度二四基、以上合計五八五基

三 C型式 型式名〈1〉AFU-400T、〈2〉AFU-400TN 長さ五八二ミリメートル

〈1〉 昭和五七年度二五基、昭和五六年度九四基、昭和五七年度九二基、昭和五八年度一二三基、昭和五九年度一六〇基、昭和六〇年度一〇九基、昭和六一年度六三基、昭和六二年度三〇基、昭和六三年度一四基、平成三年度一基、以上合計七一一基

〈2〉 昭和五七年度一三基、昭和五八年度三五基、昭和五九年度九三基、昭和六〇年度一八二基、昭和六一年度二二四基、昭和六二年度一五八基、昭和六三年度一四五基、平成元年度一五五基、平成二年度二九六基、平成三年度二二〇基、以上合計一五二一基

四 D型式 型式名AFU-250TN 長さ二九七・五ミリメートル

昭和五七年度二基、昭和五八年度一五基、昭和五九年度四三基、昭和六〇年度六五基、昭和六一年度三〇基、昭和六二年度一二基、昭和六三年度一六基、平成元年度四〇基、平成二年度五二基、平成三年度一七基、以上合計二九二基

五 E型式 型式名AFU-250T 長さ三四八ミリメートル

昭和五五年度一六基、昭和五六年度四三基、昭和五七年度二一基、昭和五八年度八基、昭和五九年度四三基、昭和六〇年度二一基、昭和六一年度二九基、昭和六二年度三六基、昭和六三年度一二基、平成元年度二基、以上合計二三一基

六 F型式 型式名〈1〉AFU-200T、〈2〉AFU-200TN 長さ三二七ミリメートル

〈1〉 昭和五五年度二六基、昭和五六年度三二基、昭和五七年度二五基、昭和五八年度二七基、昭和五九年度一一基、昭和六〇年度八一基、昭和六一年度一二基、昭和六二年度四三基、昭和六三年度一七基、平成元年度一〇基、以上合計二八四基

〈2〉 昭和五八年度一五基、昭和五九年度二二基、昭和六〇年度七一基、昭和六一年度五五基、昭和六二年度九八基、昭和六三年度一二三基、平成元年度八七基、平成二年度一一一基、平成三年度一三三基、以上合計七一五基

七 G型式 型式名AFU-300T(長さ六〇〇ミリメートル)

昭和六一年度八基、昭和六二年度四〇基、昭和六三年度一七基、平成元年度三九基、平成二年度四二基、平成三年度八八基、以上合計二三四基

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例